『李さんの台湾名物屋台』 オーナー 李承芳

『李さんの台湾名物屋台』 オーナー 李承芳さん

ーでは、よろしくお願いします! まずは李さんのこれまでの経歴を教えて下さい。

生まれは台湾の南の方で、そのままずっと台湾で育った。最初は俳優として活動していて、その後はタレントとしてなんでもやっていた。最後はお笑いもやったよ(笑)。併せて16年くらい台湾で活動していたけれど、私の性格的にお笑いの方が性に合っていた気がする(笑)。この間、台湾に帰った時は、空港まで昔の関係者が迎えに来てくれた。まるで有名人の様に豪華な大きい車で(笑)。

ー今でも李さんを慕っているんですね。日本へはいつ来たんですか?

12年前の1999年に日本語の勉強をしたくて、初めて日本に来た。それまでは一度も日本に来た事無かった。と言うのも、来日する前は日本の事が大嫌いだった(笑)。それは国の教育のせいでね。私よりも年配の台湾の方は日本への好き嫌いが極端かも知れない。でも、今はアジアの中でも親日になったよね。よく「元々は仕事で来たんですよね」って言われるんだけど、仕事で日本に来た訳じゃなくて、当時は今の韓流みたいに台湾で日本の番組が、ドラマも歌もなんでも流行っていたので、日本に詳しくなって台湾で日本の流行番組を制作しようと個人的に思ったのがきっかけ。それで、来日して1年半くらい日本語学校に通って、その間に色々とあって、またそこから1年くらい調理師学校に通った。

ーその後、どうして唐揚げ屋さんになったんですか?

調理師学校時代のクラスメイトに「自分達の店を作ろうよ」って誘われて。気軽に「いいよ! 」って言って、大須に物件を探しに来たら、すぐに見つかった(笑)。今の3号店(万松寺通店)の所。私が店を始める場所ってどこも人通りが少ないトコ(笑)! 今でこそ行列が出来たり、人通りが出来る様になったけど、当時は散々だった。台湾唐揚げもタピオカドリンクも馴染みがなかったし、立地も優れていなかったから。だから、努力したね。人を呼び込んだり、色々としていたら、近所の方から怒られたりね(笑)。人も場所も含めて、馴染むまで3年は掛かったと思うよ。

『李さんの台湾名物屋台』 オーナー 李承芳さん

色々とご苦労があると思いますけど、中でもキツかったのは?

当時は観光ビザで行ったり来たりとしていたんだけど、書類上の不手際か何かである時、入国できない時もあった。日本には家もあるし、車もあるし、商売もしているのに。小牧の時の名古屋空港に一泊した事もあったよ。それも、まるで刑務所みたいな所に泊まらされた。しかもお金を自分で払う(笑)。1万6750円くらい(笑)。何も犯罪もしていないし、悪い事もしていないのに。タレントをしていた当時も、台湾で店を何軒かやっていたけど、つぶしてしまっていた。そういったゴタゴタが色々とあったり、最初の店をスタッフに取られてしまったりで、いよいよ気付いた。それもこれもやっぱり自分が原因だったんだと。人を信用し過ぎて、自分が甘かったんだと。私は負けず嫌いで頑固な性格だから、「絶対また一からやり直してみせる! 」って台湾に戻って7ヵ月くらいしたら、また日本に渡った(笑)。

ー普通ならへこんでしまって、台湾で過ごしたいと思う所なのにスゴイですね。

今思えば、勉強になったし、笑い話にも出来る(笑)。でも、当時は確かに苦労した。考えを変えられたのは、7年前に今の共同経営者に出会った事が一番大きいね。彼に教えてもらったのは、やっぱり何事も自分で管理しなきゃダメだっていう事。「大須で失敗したから、大須でやり直す」って言って、当時はほぼ毎日物件を探していた。その時に思い知ったのが、日本人特有のあいまいさ。お願いしに行くと「いいよ、いいよ」って言ってくれて、こっちは期待するけど、いつになっても返事が来ない(笑)。そんな事が3ヵ月くらい続いた時に、偶然、今は『まんだらけ』がある当時駐車場だった所が「空いているよ」って言われて、翌日すぐに見に行ったら、大家さんが私の事を知っていて、「あなたは目が綺麗だから貸してあげる」って。もう3分くらいで話がまとまった(笑)。3ヵ月探して見つからなかったのに、3分で(笑)。1台分の駐車スペースくらいの広さしかなかったけど、その時は嬉しくて涙がボロボロ出たね。

『李さんの台湾名物屋台』 オーナー 李承芳さん

ーそこから再出発って事ですね。それから繁盛店となるのはどういった経緯ですか?

はじめの内は、周りにオタク系の店が多くて、お客さんもそういう方々ばっかりで、なかなか商品は売れなかった。偶然か運命か、そんな時にTV番組の「PS」の力で一気に名が知れる様になった。いつもそう、「PS」のおかげで私の店があると言っても過言じゃないね。放送された次の日から、行列、行列だったね。朝から晩までずっと行列…だから、トイレも行けない。それで、膀胱炎(笑)。

ーしっかりオチが付いてますね(笑)。スタッフさんはどうやって採用しているんですか?

ウチのスタッフは、最初はお客さん。それが常連になって、スタッフになる(笑)。最初はアルバイトだけど、最終的に社員、みんな、そう。ウチの味が好きでとか、台湾を思い出したりとか、理由は色々だけれど。

ー李さんの人柄もあると思います。でも、数年でベンツを乗れるまでに成長した訳ですもんね(笑)。

最初はトヨタのスターレット、その後はダイハツのアトレー、…で、今は一応ベンツになったけど、2回も車上荒らしに遭った(笑)。……その時は給料入ってなかったから良かったけど(笑)。自分で言っちゃうけど、今年の2月に事務所荒らしに遭ったんだよ。約300万円。被害に遭うまでは何もお金のトラブルが無かった。だから、私の危機管理が甘かったんだろうね。今でももちろん、犯人は見つかってない。その時は店がつぶれるかと思った。みんなの給料を払わないといけないから大変だったよ…。

ーそこで登場するのが、やっぱり、李さんのポケットマネーですか(笑)?

いやいや、そんな大金、私のポケットマネーじゃ無理(笑)! 私、貯金なんてないからね(笑)。「李さんベンツ乗っててスゴイね」って言われるけど、何も私がスゴイ訳じゃない。会社のおかげだし、会社のお金だよ。でも、いきなり約300万のお金が無くなったら店は困るよ! 前もって分かっているお金じゃないから、急に無くなると回らなくなって大変だった。

『李さんの台湾名物屋台』 オーナー 李承芳さん

ー確かに大金ですもんね。では、話を変えて、大須のここ10年を李さんはどう感じてますか?

ここ10年でだいぶ大須も変わったよね。元気になったと思うし、大家さんや経営者も変わったと思う。閉鎖的ではなくなった。でも、お客さんはそんなに大幅に増えた訳ではないよね。同じ通りに何軒も同じ様なお店や同じ系列の似たお店が多いのが、ちょっと気に掛かる。でも、東仁王門通はまだ面白さがあると思う。もっと多国籍な雰囲気を押し出していけば良いと思うんだけどなって、私は前から思っている。大須は下町だから、もっと気軽に食べれて遊べる様になれば、より良いと思う。例えば一日1000円で満足できるみたいな。あとは、商店街の中にシャッターが閉まっているお店があるじゃない!? それはなんとかして欲しいな。街全体の事を考えると見栄えも良くないし、活気が失われると思うから。

ー確かにそうですね。他に“李さんが考える”改善点はありますか?

ちょっと思うのは、それぞれの商店街にテーマが無い様な気がする。大須に来たら半日は過ごせる様な場所にしたいよね。1ヶ所に老若男女が求める、すべてが揃う場所になれば、もっと大須に滞在する時間が増えると思うよ。それに大須は座る場所が少ない! お店に入らなければ休憩出来ない。もちろん、お店に入ってお金は使って欲しいけど、ぶらぶらした後にちょっと座りたい時ってあるじゃない!? そんな時に座れるベンチとかイスが無いよ。託児所も無いしね。あと、マッサージ屋さんも無い。面白く、楽しく街の足りない所を補っていければ良いよね。

ー色々とやった方が良い・やるべき貴重な意見だと思います。では、三浦さんから頂いた3つの質問にお答え下さい。ひとつ目「タレント時代はかなりモテたそうですが、何人くらいの女性と付き合いました? 」

ははは(笑)! 何を言っているのー! 私はね、以外に女性関係はまじめなんですよ。当時はふたりしか付き合っていない。それぞれ10年と8年。一回付き合うと長いんですよ。なぜかって言うと、コロコロ変わるのが、めんどくさいから(笑)。もちろん、男だから“遊び”はあるよ。“一夜蝶”とでも言いますか(笑)。芸能界ってやっぱり噂は多いよね。そのおかげで苦労はしたよ。

ーなるほど。ではふたつ目です。「実際、唐揚げは好きなんですか(笑)? 」

好き! 商売だからって事じゃなくて、本当に。元々、商売目的で日本に来た訳じゃないし、台湾では唐揚げって代表的な家庭料理だったから。好きだからやり始めただけ。あとは、料理好きの母の影響で私も料理に馴染みがあったから。本当の台湾の唐揚げは骨付きだからね。でも、日本人は骨付きだと嫌がるから、日本人用に改良して提供しているけど。何回も言うけど、唐揚げは好き(笑)。

ーまさに、“好きこそ物の上手なれ”ですね。ではみっつ目です。「なんでそんなにナルシストなんですか? 」

なんで(笑)!? 私じゃなくて、三浦さん自分の事なんじゃない(笑)! …う〜ん、生まれつきもあると思うな。それに、オシャレが好きだし、タレントをやっていた事も影響していると思う。今でもちょっとタレントの名残りが残っているかもね(笑)。でも、以前気楽な格好でスーパーマーケットに買物に行ったら、若いカップルに「李さんじゃないですか? 」って聞かれた事があって、続いて「なんか、今日の格好、いつもと違いますね…」って、遠回しにガッカリされた事があった(笑)。それ以来、身だしなみは重要だな〜って思う。だから、私はナルシストじゃない(笑)!

ー分かりました(笑)。では最後に今後、お店をどのようにしていきたいか、展望を聞かせて下さい。

味を守って、質を高めて、一歩ずつ慎重に進んで行きたい。一気に名前が売れて、ただ唐揚げブームで終わらせたくないから、ちょっとずつ全国展開をしていきたいっていうのが理想。全国どこに行ってもこのオレンジの看板が見えるっていうのが究極の理想だね。フランチャイズを募集したら、結構来たんだけど、ただの儲け主義で始めたいっていう方が多かったから、ほとんど断った。今あるのは大阪と富山。それに今、東京での話も来ていて、条件面で交渉中。それがうまくいけば、関東進出になると思う。……質問とは関係ないかも知れないけど、どれだけ頑張って気を付けてやっていても、改善点はいくらでもあるよな〜って思う。それは、お客さんへのサービスだったり、相手を思いやる気持ちだったり。忙しくなると、どうしても疎かになっちゃう。でも、質やサービスを上げていけば、永遠にやっていけると思うから、私がいなくなっても、私の顔がイラストされた看板の中で、いつまでも生きていければ良いかなって思っている。私は社長やオーナーって言うよりも、役割は、マスコットやシンボルだと思っているから。